2015年2月21日土曜日

タンコブ事件(放浪記最終回)

新しいバイトにも、日本人3人でのルームシェアにもだんだん慣れてきて、少しずつ失恋の傷も癒されつつあった。

バイトとはいえ仕事なので一生懸命やっているとだんだんSさんにも坊やと呼ばれるようになり可愛がられることになる。

日に日に可愛がられてるのが伝わってくるのだが、またなんか嫌だなあが自分の中で沸いてくる。

なんか嫌だなあなんか嫌だなあ(笑)

Sさんのことは料理人として人生の先輩として凄く尊敬していたし好きだったが、なんとなくただ者じゃない雰囲気があったのだ。

一瞬見せる人殺しのような冷たい目や、なんか深い闇のようなものを感じていた。

そもそもなんでお店をたたんだのか?怖くて聞けなかったし、またお店をやるんですか?とも聞けない感じだった。なんか絶対に聞いてはいけないタブーのようにも感じた。

ある日いつものように、仕事していた。ただその日は明らかにSさんがおかしかった。珍しく分量ミスしたり、作り直したり時間が命なのでありえないのだ。今までもこんなことはなかったが、なんとか時間どおりに空港に届けた後、職場のホテルの駐車場に戻った。

「坊やは先に厨房に戻って片付けてくれ」

と言われ、すぐに厨房に戻り後片付けを終わらせて、Sさんを待っていた。

30分が経過した。こない。

45分が経過した。こない。

夜中の3時をまわり4時になろうとしている。外には誰も歩いていない時間。

僕は厨房の中で沸いてくる不安にただ事じゃない感じがしてきた。

ヤバイ、探さなきゃ、探さなきゃいけない。発作か何かで倒れてるかもしれない。

泣きそうな顔になりながらホテルの従業員専用通路を走り、駐車場にむかった。車は普通におかれていて中にSさんはいない。

え?なんでいないんだ?

どこにいったんだ?従業員専用通路は一本道ですれ違いになることは100%ないのだが、一応厨房に戻った。やっぱりいない!

ヤバイ、これはヤバイ。事件か何かに巻き込まれてるかもしれない。

私は泣きそうな顔で「Sさーん」と声をだしながらホテルの周りの道路を何周もした。

いない。

うえーん。迷子の子供みたいになってきた。

と、何周目か忘れた頃に前方からSさんが千鳥足で歩いてくるではないか!

良かった!生きてた。僕が全速力で近づくと、ありえない酒臭さなのだ。酒飲んでたのか?なんであのタイミングなんだ?謎すぎる。

一番びびったのはどこかで倒れたらしくおでこに漫画みたいなタンコブをつくりその先端から血が滲んでいたのだ。

えー。僕の顔がさらに青くなる。

この事件は謎しかない。謎だらけなのだ。

しかし、千鳥足のSさんはかなり酔っぱらっていて俺を送ると言ってきかない。

最悪だ。想像できるだろうか?額に漫画みたいなタンコブをつくりオイワサンみたいな泥酔した男性の運転する車に乗らなきゃならない地獄絵図を。

私は断って帰ることもできたかもしれないが、この人をほっておくとまた倒れたり、今度こそ死ぬかもしれないと思うと、誰か付き添って彼を家まで送らないといけないという謎な正義感が生まれ、わかりましたといい。

僕の家ではなくSさんの家に先に行ってもらった。

どこかでもう死ぬかもしれないなと思った。橋のしたで寝るよりぜんぜん怖かった。ふらふらするハンドルを途中なんどか助手席から触った。

そのたびに怒られたが、死にたくない俺は「すいません、すいません」を連呼しながら、運転をサポートしながら。

奇跡的にSさんの家についた。

家から奥さんがでてきた。日本の方だったので普通に日本語で説明すると物凄く怒ってSさんを思いっきりビンタしていた。

僕はいったい何を見ているのだろうと思いながら、奥さんに何度も謝られ、コーヒーとかるい食事をもらい、帰り賃をもらった。

「何かんがえてるの!あんた!この子、顔が青ざめてるじゃない!馬鹿!」

Sさんを寝室に運びながらぎゃんぎゃんに怒る奥様。

でもSさんは酔っぱらいながら奥さんに「愛してるよお、愛してるよお」と何度も言っていたのが印象に残っている。

俺はいったいなんなんだと思い。あーこの人についていくのは無理だなと判断した。

しばらくしてバイトを辞めることにした。

ぜんぜんお金もたまっていた訳ではないが、帰りのチケットもなんとか買える。僕は帰国することにした。とにかく疲れた。肉体的にも精神的にもハードすぎた。全部自分でまいた種なのが余計にしんどくて、いつの間にか背伸びしっぱなしで生活していた。普通に考えればまだ18歳だ。

無計画に無鉄砲に行動してもなんとかなる事や、人はなかなか死なないということや、人にはどうしようもないことがあるということ、なんにも無くなると頭がクリアになること、語学は頭の善し悪しじゃなく話そうとする気持ちということ、いろんな考えやいろんな知らないことがあるということ、不幸は容赦なくやってくること、なんかを約1年勉強させてもらいました。

たった1年なんですが内容が濃すぎて強烈な記憶として頭にこびりついておりました。私はあれから21年を日本で暮らしてきましたが、あの1年を越える1年に出会っておりません。過去は過去なのでなんとかしたい気持ちもあり、ブログに書いて整理できたらいいなと軽い気持ちで書いてみました。

思い出しながらかく作業は不思議と楽しくて過去の自分にタイムスリップでもして会っているかのような感覚になります。

なので「なにいってんの?」みたいな文章もあったと思いますが、許せ(笑)

少しは吐き出せたかなと思い今はスッキリしております。こんな下らない駄文を読んで頂き感謝します。放浪記おわり。

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