Cityでも小路に入ると少し薄暗く人もまばらになる。以前、チョウさんに誘われて仕事終わりに飲みに行った少しカビ臭い古いPub。店の前には黒いTシャツに黒いジーンズをはいたベイダーのようなデカイ白人が仁王立ちしている。用心棒だ。僕は18だからここシドニーでの飲酒は問題ないのだがアジア人の見た目は彼らからすると幼く、新しいPubに一人で行こうものなら必ずID 提示を求められる。
チョウさんは常連で一緒に付いて行った僕は何も聞かれずに入ることができた。ベイダーは人の顔を覚えることが得意で、次からは一人で行っても顔パスになる。
それからよく一人で来ていた。
店に入ると左手にPool台が二つ、真っ直ぐ進むと左手に長いカウンターがあり右手にテーブル席がある。テーブルの幾つかはもう動かないインベーダーゲーム機で、ただのテーブルとして使われていた。
「a pint please 」
カウンターに1ドル札を置きビールを受け取ると一番奥のインベーダーテーブルに座った。
まだ夕方で客も少ない。
カウンターで注文している背の高いスリムのジーンズにブーツを履いた女性がギネスを片手に振り返る。
僕は思わず立ち上がった。
手をあげて知らせる。
「久しぶり」
彼女は何も言わず席についた。
昨日の電話にセッチャンは出なかったのだが、朝にラインが入っていて事情を説明するとひどく怒られた。まだ怒っている。
思えば4年という時間が経過していてセーラー服とブレザーの僕らは18と20に。
ブーツの高さで背丈はあまり変わらなく中身は子供でも外身はお互い大人になっていた。
「日本語忘れたの?」
「忘れるわけないし」
「こっちに来てたこと内緒にしてたからまだ怒ってるの?」
「別に怒ってねえし」
懐かしさと嬉しさでフッと笑いが込み上げてきて耐えきれずに笑うとセッチャンも笑った。
「俺、別に驚かせようとか思って連絡しなかったんじゃないんだ。連絡できなかったんだよ。またセッチャンが遠くに行ってしまうんじゃないかって。あの時はまだ子供だった、いや今も子供なんだけど、なんにも出来ない悔しい気持ちだけで今日まで生きてきた。頭悪いけど自分なりに英語も勉強したし、本も読んで、映画も腐るほどみた。会った時からこんなに可愛い人いないって思ってたし、今はさらに美人になってる。俺なんかどうしようもない男よりいい男は沢山いると思うけど、俺は俺の中の100%でセッチャンを想うし、セッチャンはどう思うかわからないけど、少なくても俺はそうすることで生きている意味を感じる。少し時間がかかったけど振られる覚悟がやっとついたんだ。遅くなってごめん、俺はセッチャンが好き。俺の彼女になって欲しい」
人差し指で涙を切るとセッチャンは
「Why not 」と言って僕の襟首をつかんでインベーダーの上でキスをした。
終わり。