2016年3月30日水曜日

Lust for life

1年以上学校で口をきいていない。熱血教師が怒鳴り散らした時も涼しい顔で無視した。その後彼は精神を病んで長い休職に入ると、ちょっかいをかけてくるものは一切いなくなった。僕は動く引きこもりだ。

ただセッチャンに出会ってから変化があった。席替えをした後隣になった亮くんがしきりに話しかけてくる。しかもセッチャンと一緒にいたところを見たと言ってくる。すこぶるめんどくさい。「ねえねえヒロ君はラインとかtwitter とかインスタとかSNSはやっていないの?」僕がやってないよと嘘を言うと「お!話してくれた。」と目が大きくなった。「いやねグルチャではこんな写メがデマわってるんだよ」と言うと僕とセッチャンが一緒に走っている写メを見せてきた。

「これ出した奴誰?」と立ち上がると亮くんは慌てて僕を座らせて「必ず僕が消させるからまずは座って」と言いおでこを手で拭いた。

「いやね一昨日ぐらいからアップされてて聞こうと思ったんだ。なんせあのヒロ君に謎のハーフ美女だからね学校のスクープネタとしてはこれ以上ないさ、今の反応でよくわかったよくわかったけどさ、僕のお願いも聞いてくれないかな画像は消させるからさあ」と言うと指2本を口に運ぶジェスチャーをした。

帰りに亮くんとびっくりドンキーに寄った。聞けば亮くんは新聞配達をしてるからと言い全部奢ってくれた。こんなにチャラチャラした感じでズカズカと他人のプライベートに入ってくる人間にしては物凄く地味で着実なバイトをしていてなんだか好感を持った。チーズバーグディッシュ300グラムを食べながら亮くんは「実はあの写メ俺が撮ったんだごめんね」と言ってきて次の瞬間気づいたら胸ぐらをつかんでいた。「ちょちょまってよすぐ消すからすぐ」と言ったので僕はゆっくり手を離した。「ホラ」と言って消した画面を見せてくれた。

ふーと大きく深呼吸すると亮くんは聞いてもいない話しを勝手にし始めた。

年のはなれた姉がいること、親が離婚していること、将来の夢がないこと、遊びたくてしょうがないこと、世の中がつまらないと思っていること。映画が好きなこと本を少し読むこと。最近ラジオをよく聞いていること。彼女と別れたばっかりで女なんか糞と思っていること。エネルギーが有り余っていること。

僕は共通項が意外に多くてびっくりドンキーでびっくりしていた。思わずボタンを押してガトーショコラを頼んだ。亮くんは笑っていた。

亮くんは帰りにヒロくんも新聞配達しない?と誘ってきた。一緒にやったらいろいろ面白いかなって。はじめ意味がわからなかったが金は欲しいし朝誰も起きていない時間というのが僕にしっくりきた。やるよと言って来週から一緒にすることになる。

Iggy popのLust for life をガンガンに鳴らしイヤホンから音がもれている。朝早く起きるのは慣れたし亮くんと一緒に仕事終わりに散々悪事を働くのが楽しみだった。ヤクルトやジョアは殆ど盗んだし、しまいにはスーパーの裏口に忍び込んで銀色のシートがかかったコンテナからいろいろな商品を盗んでは笑いながら二人で逃げた。

しばらくするとパトカーが見わりにきてできなくなると影からロケット花火で襲撃してやった。爆竹も常に装備していた。亮くんが爆竹を全部ばらして火薬をひとつにまとめたらスゲーんじゃね?といい完成するとさっそく学校のつき山で試した。導火線もかなり長く結んで離れた場所からライターで火をつけると、シュシュシュと音をたてて一気につき山の頂上へ向かって火が走っていくとボフっと鈍い音をたてて上半分が吹き飛び富士山のような火口が出来た。二人で大笑いしながら火口にションベンをした。

そのうちセッチャンにも亮くんの話しをすると今度家に連れてきてよと言われた。

僕は抵抗なく彼を連れていく。亮くんのほうが緊張していた。「いやいやヒロくんホンとにいいの?俺好きになっちゃうかもよ?」と言ってきたので「好きになれよ」と返した。

亮くんはずっとソワソワして落ち着かない。いやこんな緊張、童貞を失う前夜みたいだと訳のわからないことを言って僕を笑わせた。

セッチャンの部屋に着くと亮くんは落ち着いていつもの早口で自己紹介を終えると聞いてもいない話しでリズムをつけた。

セッチャンはコロナを3本出してきた。亮くんは飲めないと言うが二人とも首を横にふると渋々乾杯した。

噂に聞いた通り面白いねとセッチャンが言うとペーパーをひろげだした。亮くんがまた緊張した。これがあの噂のアレっすかコレッすかと騒ぎだして僕らを笑わせた。3人で吸った。

意外にも今日はmadonnaのbitch i'm madonna をかけてきた。驚いて「マドンナ聞くんだセッチャン」と言うと黙って目を閉じて両手を顔の横に挙げた。僕が「デニーロかよ!」と突っ込むと亮くんがコロナを吹き出した。

Hey man と言いながらティッシュで拭いた。亮くんはあまりキマッていない感じがして気になったから頭を解放しろとアドバイスしてあげた。

すると笑いだしたので僕とセッチャンは頷いた。ファーストラフィングが終わればこっちにこれる。スケッチブックを亮くんに手渡した。僕とセッチャンは肩を組んで腰を下ろし窓に寄りかかった。亮くんが描きはじめて5分ぐらいだろうか20分ぐらいたったのだろうか?時計がないと時間の経過がまったくわからなくなる。

亮くんがスケッチブックをこちらに向けた。僕とセッチャンが大笑いする。絵が下手だから笑ったんじゃない何故か窓の外に宇宙人を描いていたからだ。怖い怖いと笑いながら宇宙人を指差した。何度言っても「いた」と言ってきかなかった。

亮くんが仰向けで寝はじめたので、僕らはベットにうつりはじめた。madonna が終わるとIggy popになった。これ好きと言ってキスをした。

しばらくすると亮くんが脚がないと騒ぎはじめた。僕らは笑いながら脚はあるよと丁寧に説明したのに彼は絶対にないと言い張る。困った僕は彼を担いで部屋を出た。大丈夫亮くん?う、うん。歩ける?うん歩ける。なーちゃんと脚はあるだろ。ある。

あれだけ世の中つまらないと思っていたのに今はこんなに楽しい。勿論誉められたことは何ひとつしていない全部悪いこと。けどどうして善いことは楽しくないんだろう。善いことってなんだろう。亮くんを家に送ったあと少し考えていた。

続く

Under world

昨日すれ違った女の子の話しを母にした。髪をゴムでとめて化粧を落としながら「どんな顔だったの?」と興味なさげに聞かれて、答えようにも答えれなかった。ぜんぜん思い出せないのだ。「忘れた」と言うと、「もしかしてまたお化けでもみたんじゃない?」と茶化された。

去年家族で母の実家に遊びに行った。札幌の外れにあるその場所は地元でも有名な心霊スポットの近くで、母が運転するレンタカーの助手席に僕、後ろに弟が乗っていた。

まだ小学生の弟を怖がらせて楽しむ嫌な癖が母にはあった。「あっそうだ宗ちゃん、せっかくだからあの滝にいこっか」と言うやいなやハンドルを切ると実家を通りすぎて山に向かう坂道を上がった。僕も何度か行ったことのあるその滝は公園になっていて駐車場から階段を降りると滝壺まで行ける細い道がある。

北海道とは言え真夏だと言うのに空気はヒンヤリしている。相変わらずこえーなと思ったが、周りには若い男女がなん組もキャッキャ言いながら歩いていて少しだけ和らいだ。母はスタスタと滝まで歩くとスマホでガンガンに写メを取りまくっていた。多分twitterにあげるのだろう。街灯がなく真っ暗になる道中、弟は凄い力で僕のパーカーの下のほうを握っていた。やっと母に追い付いて滝壺のそばまでくると「さっ帰ろうか」とさっさと車に戻りはじめた。僕も弟の手をとり母を追った。

車に戻ると母が嬉しそうに「宗ちゃんあそこ公衆トイレあるでしょ、そこで高校生が焼身自殺したんだってえ」僕が反射的に「やめろよ」と言うと「ごめんね」と小さく謝った。

車を出して山道を降りる途中左手に大きなスペースがひろがっていて奥の方にバス停の時刻表と横にベンチがあった。ここが終点でバスがUターンできるスペースだ。夜の11時だと言うのに古い自転車が3台横に倒れているのが見えて3人の子供が遊んでいた。次の瞬間。

3人の子供が一気に道路脇にくると車スレスレまで近づき一斉に大きな万歳をした。僕はなんだ今の子供はと思って母の顔を見ると真っ青な顔をして前を向いたまま「ヒロちゃん見たの?」と言う。「え?今の子供でしょ?危ないよねあんなに近づいて」と答えると、「宗ちゃんは見たの?」と続けて聞いてきた。宗は「子供?みたよ、万歳してたやつ」 ハァと母がため息をつくと「顔思い出せないでしょ」と言われて僕と宗は凍りついた。

顔がなかったからだ。それが生まれてはじめての心霊体験になった。その日以来ことあるごとに母は真面目な顔をして「顔思い出せる?」と言っては宗を怖がらせた。

僕はあれがお化けだったのか何かの幻覚なのか正直よくわからない。ただどちらでもいいような気がした。いずれにしても退屈な毎日を変えてくれそうになかったし、どちらでもいいのであればお化けだったとしておくほうがなんか面白いかな、なんかロマンチックかなあと思い、お化けとしておくことに決めたのだった。

ただ昨日の女の子は明らかに違った。一瞬の出来事で顔を思い出せないだけで声も聞いたし、次に出会えばすぐにわかるそんな気がした。それがいつになるかわからないけど。

それは次の日にいきなりやってきた。学校の帰り道、近所の繁華街にさしかかると物凄い勢いで彼女は走っていた。こちらに向かって。

頭の中にあるiPadの画面が4分割にされ右上から順に彼女が走ってくる絵、下に彼女の手がアップされ、左上にうつると僕が手を引っ張られ最後の1枚が動き出す。気がつけば一緒に走っていた。後ろの方から「まてえまてえ」と聞こえていたが、だんだん聞こえなくなって行った。

彼女はオートロックの立派なマンションの前につくと僕から手を離しゼエゼエと息を整えた。彼女は「寄ってく?」と聞くと僕の答えも聞かず手を引いて中に入れた。

いつかのドラマや映画でみたような、ホテルのような部屋だった。使用人でも雇っているのだろうか隅々まで掃除されていて歩くのも気がひける。彼女の部屋に入ると、二人は時間を忘れて話しをした。

聞けば彼女はオーストラリア人の父と日本人の母とのハーフで1年前から日本に住んでいること、僕の二つ上の16であること、お父さんは仕事の都合でオーストラリアに戻っていること。母親も急に出張が入ったからとラインがきたこと。あまり学校生活に馴染んでないこと。さっきはドラッグストアで万引きをして逃げてきたこと。

僕はつい「なんだお化けじゃないんだ」と口を滑らせると「は?なにそれ」と鼻で笑われた。彼女はタバコに火をつけた。僕は少し驚いて「ヤンキーなの?」と聞く。しばらく間があいてから「May be」と小さく答えた。

僕と彼女の間にある大きな共通項は「つまらない」ってことと有り余るエネルギーだった。

「俺はヒロ、名前は?」と聞くと彼女は恥ずかしそうに「節子」と答えた。僕は我慢できずに吹き出した。「いっつも笑われるんだよねほんと、なんなの!」僕は丁寧に彼女の顔のほりの深さと「節子」という名前の古風な感じのギャップを説明すると「じゃあイングリッシュネームのティアでいいや」と言った。日本で新に自己紹介するなら絶対にティアにすべきだと教えた。けど僕は「セッチャン」と呼ぶことを決めたからもう遅いと伝えると彼女はおもむろにペーパーをひろげだした。

パイプをくわえたオジさんがデザインされた水色の入れ物に謎なペーパーがギッシリつまっていた。彼女は小さなジップロックの袋を取り出すと僕の鼻に近づけた。「臭っ」彼女は笑ってその中身を取り出すと程よい量をひとつまみにし、ひろげたペーパーにのせはじめた。僕は直観で本で読んだアレだと思った。多分そうにちがいない。彼女はペーパーを完全に丸め終わると僕の目を見ながら口の中に丸ごと入れ唾液で湿らせながらユックリと抜いた。

僕は唾を飲んだ。

「こうすると火の通りが遅くなるの」「ヒロはタバコは吸うの?」と聞かれ家では吸っていると言うと彼女は安心して目を閉じると火をつけた。まるでこうするのよと肺一杯に煙を吸い込むと息を止めたまま僕に渡してきた。

僕も同じように吸う。息を止める。彼女に返した。彼女はあいた手を挙げるとまっての合図でギリギリまで息を止めた。もうこれ以上息を止められないところでゆっくり吐き出すとモコモコと雲のような煙が天井に上がった。

彼女の目が一気にとろんとなって僕は一気に笑いだした。笑いがとまらなくなった。体はジンジンして笑いがとまらない、そしてこんな可愛い顔をしてセッチャンという名前がさらに笑いを誘った。僕は泣きながら笑い続けてジタバタしていたら急に体が軽くなってきた。彼女はPCの電源を入れたと思うと小さいワイヤレススピーカーを両手に持ちニヤニヤしながら僕の両耳に絶妙な距離でセットするとそれを耳に近づけたり離したりを繰り返した。

「何この曲?」と聞くと「under world 」と発音よく答えた。

僕は目を閉じた。音がボヨンボヨンと広がり聞いたことのない音を聞いている。暗闇で僕が母親のお腹の中にいた時のポーズでぐるぐるまわっている。去年でたお化けが音楽に合わせてなんども万歳している。お母さんと別れたお父さんが出てきて「いいか、ヒロ!馬鹿に近づくなよ」と言ってくる。実際言っていたし、忠告通りお母さんについていったよと僕は答える。セッチャンがキスをしてきた。多分これは本当だろう。彼女の鼻が顎に当たっている。ぐっと奥まで沈みこんだ。危ない戻れないかもしれないと少しだけ怖くなった。

Under world が片言の日本語で何か言っている「ゲンキデスカトウキョウ!」それは東京ライブだった。なんだかまた笑ってしまう。

目を開けると彼女はベットの上で下着姿になっていた。綺麗だけど正直色気はなかった。どこまでも綺麗なままでいやらしさがなかった。ただ感覚が音から触感へと変わるとスイッチが入った。

Under world は軽快なリズムで鳴り響き、生まれてはじめて感じる快感に我を忘れた。彼女は最後までリードしてくれて、我慢しなくていいよと耳元でささやくと一気に終わってしまった。

彼女は泊まって言ってと涙目で言うと、僕はスマホで母に知らせた。

その夜は何度も繰り返されたunder world の音は僕に変なスイッチをつけてしまった。正直生きていて良かったと思った。でもあまりの刺激の強さに僕は少し怖くなった。お化けの何十倍の怖さがそこにあったのだ。