2016年4月4日月曜日

Stop crying your heart out

朝から暑い日だ。暑くて起きた。すぐにシャワーを浴びる。天井近くにある換気用の窓は全開で隣のアパートの屋上が見え、その向こう遠くにある煙突から煙が上がっていた。

夏休みということだけが唯一の救いで、とても許せる暑さではない。

あれから毎日会っている。会わずにはいられない。

最近はよく近所のビルのカラオケにいくようになっていた。何をやってもすぐに空きテナントになっていた場所が去年からカラオケボックスになりようやく落ち着いていた。

セッチャンの洋楽を黙って聞いているのが幸せだった。ふと壁に貼ってあった花火大会のチラシが目に入って。

fire workが流れだす。

僕が勝手に入れた曲を完璧に歌ってくれるセッチャンをじっと見つめていた。

店を出るとちょうちんが至るところに出ていて普段ビルの中で営業している飲み屋さんも今日はテントを出してデ店の準備をしていた。

ビルを出て隣の隣がうちのアパートだ。

母がお婆ちゃんから譲り受けている紺地に白の花模様が入った昭和臭漂う浴衣と水色の帯を用意して待っていた。

内心古すぎやしないかと心配したが、セッチャンが着替えを終えるとその不安は吹き飛んだ。

「ほらあ、やっぱり私の思ったとおり、古い物を若い人が着ると両方映えるのよ」と母が結ったセッチャンの髪にかんざしを差した。

僕はこの時はじめてセッチャンが節子という名前で良かったと思った。

人が大量に歩いている。同じ学校の生徒も何回かすれ違ったがそのすべてが2度見以上してくるので僕はその度に俯いた。

提供している会社の名前が呼び上げられている。河川敷に降りてできるだけ人のいない端に陣をとった。

はじめ並んで座っていたがセッチャンが無理矢理ぼくの膝と膝の間に割り込んでくると僕の腕を体に巻いた。

セッチャンは花火を見ながら「ごめんね」という。僕はギュッと腕をしめて顔を埋めた。

セッチャンは来月オーストラリアに帰ることになっていた。

僕は勝手にいろいろなことを心の中で決めていたのだけど何も言わないでおいた。いや言えなかった。
Stop crying your heart out が頭で流れて、花火大会はそっと終わる。

続く

Can you keep a secret?

いつものラブホテル街にさしかかると、
セッチャンのお母さんがスーツ姿の男性と出てきた。

この前見たセッチャンのお母さんとは別人のようで、しかし一目でわかる間違いのない顔。僕は息を飲んだ。

僕は急にブレーキをかけるのも怪しく思われると思い、まるで空気のように息を止めながら二人を追い越した。

気づかれてはいないと思うけど。

その日は昨日の疲れと得たいの知れない具合の悪さで学校を休んだ。

何故かまた世の中がつまらなく感じてきた。

新聞配達も辞めると電話して学校もさらに3日休み、4日目の朝、母に髪の毛をつかまれて怒鳴り付けられた。

「ヒロ!何考えてんのよ!起きなさい!学校行きなさい!」

僕は黙って学校へ行くことにした。

亮くんが仕切りになんで休んでいたか聞いてきたが無視してしまった。

変な罪悪感があって一言「ごめん」とだけ言うと後は全て黙っていた。

不思議と人の声を無視すると鳥の鳴き声だけやけに耳に残り机に顔を伏せて寝る。

家に帰るとすぐに布団に入った。再放送のドラマからCan you keep a secret が流れてくる。いや誰にも言えないよと布団を頭までかぶる。

大して眠くないのに眠りたかった。

だんだんあれは何かの間違いなんじゃないかと思えてきた。見間違え、他人の空似。どちらでも関係ないなら、見なかったことにしようと決めたのだった。お化けとは逆に。

セッチャンからラインが来てすぐに向かえに行くと。ドアを開けたのは紛れもなくホテルから出てきたセッチャンのお母さんだった。何かいろいろとお礼のようなものを言われていたがまったく耳に入ってこない。お化けの言葉は聞こえないのだ。「あっはい」を適当に繰り返してセッチャンの部屋に入る。

セッチャンは少し体調がよくなったのか少しふっくらしてきて完全にzombieではなくなっていた。嬉しかった。

「学校行ってるの?」

「うん」

「そっか良かった」

「てか俺のほうが最近休んでたし」

「なんかあったの?」

「いやなんもないよ」

「サボろうと思ったら母さんに怒られた」

「お母さんに会いたいな」

「キレたらヤバイからやめといたほうがいいよ」

セッチャンがPCをたちあげるとお父さんが好きなのと言ってニルヴァーナのAbout a girlが流れた。

セッチャンもfreeでは会えないの?と冗談を言うと、NO i'm not と答えてベッドに引きずりこまれた。

ビアノの音がしてVanessa Carlton A Thousand Miles が聞こえてくる。○○が好きなのとセッチャンは言った。

何かにあてつけるように彼女を抱きしめた。

終わると天井を見ながら二人で話しをした。お父さんのことオーストラリアのことこれからのこと。会話は楽しかったけどいずれ向こうに行ってしまうだろうなと感じてなんだか寂しくなったし、やっぱりつまらないとこに落ち着くのかと思った。

けどはじめて何かをしたいと感じていた。もがいてみたいと。

続く。