2015年10月7日水曜日

コンビニ

朝目覚めると誰もいなかった。

会社についた。

早くきて書類を片付ける為だ。

一番乗り、誰もいない会社は雑用をするには最高である。邪魔者はいない。電話もならない。上司の嫌味も部下の悩み事もない。

一気に雑用を終わらせると一服したくなった。コーヒーを淹れながらタバコに火をつける。

事務所の壁に貼られている営業グラフを眺めながら勝手に上司気分を味わう。

あーこいつ今月はサボッてるなあ、こいつは今月頑張ってるじゃないかあ、と人のグラフと中身はよく見えるものだ。

自分のグラフは目標までまだまだなのに。

時計に目をやると8時10分前、もう始まるというのにやけに静かだ。おかしい。

出社時間だ。8時になっても誰も来やしない。8時10分になっても来なかった。8時20分になっても来なかった。8時30分になったところで今日は休みの日かどうか疑わしくなってきたが、そんなことはない今日は月曜日だ。

電話すら鳴らない。おかしい。明らかに何かがおかしい。先輩から上司から電話した。でない。スマホでググッてみたが、ネットに繋がらない。実家に電話したが誰もでない。

いったい全体どうなっているのだ?やけに早く会社についた事を思い出した。そうだ。車がまったく走っていなかった。けど信号は動いていたぞ?だんだん不安になってきた。

急いで車に乗り込んだ。

実家に向かう。途中、案の定車とすれ違うことはなかった。実家のドアは閉まっていたが鍵の隠し場所は知っている。

開けて中に入る。声を出したが誰も返事はしない。部屋中を探しても誰もいないのだ。まさか僕以外の人間だけ消えたのか?いやそんな事はない筈だ。

人は極限の状況を簡単には認められない。

しかし、一日中車を走らせて町中捜したがひとっこひとりいないではないか。

どうする俺。

お腹がぐうと鳴いた。そう言えば朝から何も食べていないことを思い出した。何か食べなければ、それから落ち着いて考えよう。と思っても落ち着ける状況ではない。

いつも外食ばかりしてきた癖で牛丼屋にきてしまった。車を降りた瞬間笑いが止まらなくなる。いやいや、誰もいねえっつうの。牛丼屋で働いた事がなかったので、近くのコンビニに向かう。

お金がこの状況でまったく意味の無いものだという事を認識するまで半日かかった。しかし、なかなか今までの価値観をそう簡単に捨てられる訳でもなくお尻のポケットにはしっかり財布がおさまっている。

コンビニに入るとピロピロピロと客が来たことを示す音が虚しくなった。

「すいませーん」と大声を出すも誰もいない。お弁当や惣菜棚の冷蔵スイッチは切れていない。電気はきている。しかしこれも時間の問題ではないかと思った。発電所に人がいない状況でどうなるかなんてわかりもしないが、いつかは止まるであろう。とりあえず弁当をしっけいし、ビールをあけた。なんでも良かったが何故かエビスにする。

勝手に事務所に入った。狭い事務所には防犯カメラのモニターがある。モニターの下には録画されたテープがぎっしりつまった棚があった。

誰もいない、誰もきやしないモニターを見ながら弁当を食べる。

いろいろ考えた。このまま誰もいない街で生きていくとしたら何をすればいいか、今まで生きてきてこんなに真剣に考えた日はなかった。何て日だ!と誰かが言っていたのを思い出しつつ、真面目に考える。ネットは繋がらない、人がいない。辛うじて電気はきてるがいつかは止まる。水が必要だ。電気もいる。何から手をつければよいのだ。俺一人分の食料なら街で調達できよう、しかし、まてよ、冷蔵されているもの冷凍ものはいつかは溶けてしまうではないか!やはり電気だ、発電機だ。発電機を盗んできてその電気をコンビニのバックヤードや冷蔵、冷凍に繋げよう。あと車を使ってできるだけ効率よく食料をこのコンビニに集中させるんだ。まて、ガソリンはどうする?いやスタンドは街にかなりある。どれか枯渇しても大丈夫だろう。水は大丈夫か?あわてて水道の蛇口をひねった。出る、しかしこれもいつかは止まるのか?いや飲めなくなるかもしれないな。わき水の出るところでポリタンクに入れて運ぶとするか、あといろいろ知識が必要になる図書館で農業、工業系の専門書、百科辞典も運んでこよう。いざとなれば農耕をしなければなるまい。なんなんだこの状況は、しかししばらくの間はなんとかなりそうなところまでうっすら方針が決まると急に酔いがまわってきた。

酒だ酒がいる。酒ならぎっしり並んでいるではないか!片っ端から飲んでやった。ベロベロになってきたが、今度は急に寂しくなった。彼女とのプリクラを見ながら泣きそうになる。目をつむり首をふった。

ん?閃いた。この防犯ビデオ、まだ使えるな。酔ったまま服を脱ぎ捨てた。少し寒いが裸で店内を歩きまわってやった。すぐに事務所にもどりテープを巻き戻す。再生。馬鹿すぎる男が裸で店内をうろついているではないか!大笑いしたが、まだ足りない、いろいろ台詞を考えては大声で叫びながら歩いたり、一人コンビニコントをやったり、カミシモふりわけてレジの上で落語もしたりした。その度に事務所に戻っては巻き戻しゲラゲラと笑った。さんまさんの気持ちがイタイほどわかり。俺最高である。しかし、だんだんと飽きてくるのである。

酔いが覚めてくると、今まで一生懸命働いてきた自分の仕事が糞の役にもたたない運命を呪った。農家の息子ならまだ楽だったかもしれない、技術者だったら、水道局の人間なら、燃料屋だったら、電気屋だったら、建築家だったら、何か役にもたったろう。第三次産業の虚しさが身にしみる。漁師でもいい。

くそ、なんなんだサービス業って。嘆いても仕方がないこの街には人がいないのだから。ん?他の街にもいないのか?本当に誰もいないのだろうか?車を走らせるか?電車の運転でも調べて乗ってやろうか?いやこの場所を離れるのは得策じゃない。のろしをあげて誰かに見てもらおうか?んー。わからない。

その日はコンビニで寝た。

次の日からなかなか忙しくなった。使えそうな冷蔵トラックや搬送車など働く車を片っ端から盗みコンビニの駐車場に並べ、あらゆるところから冷凍の肉や冷凍食品を運ぶ。発電機を運ぶのに死ぬ思いをした。いや重いのだ。ジャッキアップで隙間をつくり台車を滑り込ませる。販売店の入り口にある階段に板を張り付けバリアフリーにし、搬送車の荷台に真っ直ぐ繋げた。半日格闘してうまくった時、嬉しくて泣いてしまった。

続く