昨日きたアボリジニの男が野球ボールぐらいある草の塊をドヤ顔で出してきた。
規格外の大きさに驚きを軽くこえて笑いがこみあげる。同じく昨日会ったばかりの横浜からきたB系二人組は声を出して大笑いした。
「いやいやいやいやこんな大きい塊みたことないよ。ねえ、トオルさん」とビニール袋をツンツンする。
トオルさんと呼ばれた兄貴分は僕の顔を見るなり話しかけてきた。
「ねえ、君、名前なんてゆうの?」
「あっ俺っすか、ヒロです。」
「ヒロ君さあ交渉してよ、アボちゃんに」
シドニー中心部から少し西に位置するバックパッカーに僕は陣をくんだ。
セントラル駅までは3駅ほどの近さで中心部まで歩いて行けないことはない。
1部屋に二つの二段ベッドが置かれ薄茶色のブランケットが畳んであった。
少し入り組んだつくりになっていて狭い迷路のような感じもする。そのおかげで「え?こんなとこも部屋だったのか」と意外なところから突然人が出てきて驚く。
毎日入れ替わり立ち替わり旅行者がやってくる。共同キッチンや憩いの部屋、TVルームは情報交換に最適な場所で様々な国籍の人間が集まる。いわばリアルのSNSだ。
周りには緑も多く、大きめの公園もある。
宿の裏にある庭にはバーベキューができるようにブロックがつまれていて、その中心部には使用済みの炭が少し残っている。汚ないテーブルが二つ無造作に置かれていてどこから盗んできたのか、旅行者が置いていったのかわからないアウトドア用の折り畳みチェアに腰をおろした。
交渉をすると「金なんかいらないよ、一緒に吸おうや」と言われ、おもむろに極太巻を作ると僕に手渡しきた。
一回りするとトオルさんと弟分ワタルの目は瞼(まぶた)に分銅でも載せられたかのごとく細くなりかなり酷い片言英語でアボちゃんに話しかけている。
僕はその光景をみながらセッチャンを想っていた。
実はセッチャンに僕がオーストラリアに来ること来たことは伝えていない。伝えれば会ってくれると思うラインで一言書いてしまえば。けどそうするとまた同じことの繰り返しになるようで嫌だった。伝えたい言葉も伝えられないまま、僕の大事な人は僕の大事なモノを持って遠くに行ってしまった。僕はその事を仕方のないことだと割り切れないできた。
頭の中に円周率らしき数字の羅列が並ぶと円形になって立体的に回転しだした。目の前にも同じ映像が広がると数字がだんだん文字にかわる。
手前に来るほど大きくなり、奥にいくと極端に小さくなる。
文字は読める。"お前が悪い""お前が弱いからだ"
僕は「わかってるよ」と答える。
文字の向こう側ではトオルさんとワタルが笑いながらタバコを吸っていて、
気がつくとアボリジニの男はいなくなっていた。聞くと「眠くなった」と言って部屋に戻っていた。
「ヒロくんは何でシドニーにきたの?」とVBビール瓶を手渡しながら聞かれた。
「自分でもよくわかりません」
まんざら嘘でもなかった。本当のところはよくわからないのだ。
「なんか面白いね」と言うと横浜ボウイズも部屋に戻って行った。
みんなあっさり帰ってしまったのは自分が思うより時間がかなりたっていて、セッチャンのことを3時間近く考えていた計算になる。
僕は一人でVBを飲みながら明日、どこのお店に面接に行こうか考えていた。
時給がいいという条件だけで、セントラル駅から2、3ブロック入った商店街にある日本食レストラン「Ippon 寿司」に決めると残り少ないビールを飲み干した。
暑い冬の夜中に外でビールを飲める国とはなんと素晴らしい国であろうか。南半球の事情は思うより難しくなさそうだ。
もう何ヵ月も会話していないラインを見て目をつぶる。僕も部屋に戻った。
続く。
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