ドアを開けると墓地がみえる。土日には線香の香りが部屋を包む。お寺の隣に住むことになった。入居するとき担当者から案内されたが振り返らなかった為、次の日になるまでそこが墓地の隣だとは気付かなかった。
朝起きて準備をし部屋をでると周り一面に墓石が見える。僕は思わずニヤリとした。
気が触れている訳ではない、普通じゃない雰囲気が堪らなく好きなだけだ。
新しい工場は歩いて20分、途中、定食屋を3つ数えた。大きめの神社の迎えには御利益がありそうな魚屋さんがあった。
よくわからないが、この場所だけでよく売れているのだろうと想像した。
この道は昭和にタイムスリップしたような懐かしさが滲みでている
20分はあっというまだ。
いろいろな手続きを終え、実際に仕事を教えてもらい、作業していた。簡単な仕事なのですぐ覚えた。
次の日、同じ所に新人さんが入ってきた。歳は50ぐらい、白髪が目立ちやたらと低姿勢だが、仕事はまったくできない。
僕も新人なのにいきなり新人同士で仕事をするはめになった。
気が遠くなるような行動ばかりするオジサンにイライラしないようにイライラしないようにと思えば思うほど、イライラするものである。
人間はめんどくさくできている。
休み時間にタバコを吸って気を落ち着かせ、オジサンの事を少し思った。
そうだ世間話しでもすればイライラも少しは解消されるかもしれない。そう、思い休憩後少しだけ会話をした。
すると
「歳はいくつですか?」とおじさんは聞いてきた。目を少しだけ大きくしている。多分僕の年齢をまったく想像できなかったのだろう。
「僕ですか?39の年寄りですよ」と答えると
「えー若いんですねえ、白髪が多いから僕と同じぐらいかと思ってました。」と本当に驚いたように言ってきた。
驚いたのはこっちである。白髪が多いだけで年齢を予想するならハクハツの玉置さんは100歳ぐらいにならないといけないし、自分と同じぐらいかとって、まず年齢を言え。お前はいったい何歳なのだ?
いけない、またイライラしてしまう。とさらに
「なんだあ、そんなに若いならどこか就職したほうがいいですよ」と続けてきた。
僕はあははと軽く笑い、急に真顔になった。
シャッターが閉まったようだ。僕のシャッターは割りと早く閉まる。
そんなこんなで仕事を終えた帰り道。
ふとオジサンの事を思った。
イライラしか感じない台詞を繰り返し再生してみたのだ。何かひっかかるものがあったのだ。なんだろうと何回も再生してみる。
「どこか就職したほうがいいですよ」だ。この台詞だ。
この台詞を冷静に考えてみた。最後までおじさんの歳はわからなかったが、たぶん50ぐらいだろう。裏にはこんな背景でもあるのかなと思った。自分はもういい歳でなんの取り柄もない、就職なんかもう無理でどこも雇ってはくれないだろう。けど君はまだ若い(僕よりは)だからこんな、工場に非正規雇用で働くより就職したら?と言ってきたかもしれないと、思うとなんだかオジサンごめんって気持ちになった。
勿論勝手にストーリーを作って感情移入してしまっただけだが、なんだか切ない気持ちになった。
明くる日、オジサンは偉い人達に物凄く怒られて仕事を辞めさせられることになった。
仕方ないかなあと思いつつ、切ない気持ちはより大きくなり、今の社会の冷たさを感じてしまった。あのオジサンはどこに行ってしまうのだろう。
そんな勝手な想像しながら墓石が僕にお帰りなさいと言ってくる。僕はただいまと言った。
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