チョウさんはいつもと変わらず下ネタで挨拶をしてくるが、みな深い二日酔いでどこか暗い。逆にサチコさんだけが笑っている。
アサイさんと僕は黙々と仕込みをしていた。
毎日同じように鶏や魚や肉をさばいているといろいろ感じてしまう。
どれひとつ同じ鶏や魚や肉はないのだけれど、結局それは鶏や魚や肉であって、大差ないのだ。鶏の世界じゃさぞスタイルが良かったであろう鶏も、魚の世界じゃさぞ泳ぎの速かった魚も、豚の世界じゃ話しの面白い豚も、みなさばかれて、アサイさんやカンさんに美味しく調理され、下ネタをばらまいているチョウさんに運ばれ、客の目の前に並ぶ。
まだ食べられるものはいいのかもしれない。手元がくるってヘドロまみれの床に落ちた肉は、まっすぐゴミ箱に入ったりもする。
人間の世界もある一点から見つめれば、同じようなものなのかもしれない。そのある一点とは何かはわかりもしないけど。
今朝、久しぶりに横浜ボーイズとバックパッカーの共同キッチンで会った。明日帰国するのだという。彼らはオーストラリア人の友達に会いに来ていた。DJをやっている白人の友達は去年まで横浜に留学していたらしい。昨日は彼と三人で葉っぱをすった後にハーバーブリッジの鉄柱を登ったと笑いながら言っていた。
いろいろな肉があるのだと思った。
冷凍の豚肉を電動スライサーにかけながら、自分の中のモヤモヤを考えていた。
4年も前からずっと同じ人を想うってなんなのか、新聞屋の先輩はハッキリさせないと進まないと、ここに彼氏とかいたりしないのだろうか、俺のことなんて忘れてるんじゃ。。
ポロっと肉が床に落ちた。
散々生意気な口をきいたバチがあたったかのようにびびりまくっている自分とご対面することになる。
「昨日はありがとう」とサチコさんが言ってきた。
僕は何のことかわからなくて少し目を大きくした。
「いやfire workリクエストしてくれて」
「ああ、いや僕が単に聴きたかっただけなんで」
「ねえ、今日も行かない?」
「え?」
訳のわからないまま、2日連続で店のすぐ近くにあるカラオケに来てしまった。
昨日と違うのはサチコさんが来てほしいと思った人限定の飲み会になったこと。ユウコさんツヨシさん、俺に、ノリさん。
サチコさんは昨日のことがあってか、ずっと明るくはしゃいでいる。空元気なのか本当に何か吹っ切れたのかはわからないけど。
当たり障りのない話しに、あえての軽い恋愛話しまで出てきて僕は話しを聞いている振りをして自分と対話していた。
カラオケボックスなのに誰も歌わない、
修学旅行の夜みたいに話しこむ5人。
一瞬の間があって、僕はすかさずノリさんの歌が聞きたいと言うと、「いいよ」と軽く答えてくれた。
"風に吹かれて"と画面に表示される。
輝く太陽はオレのもので
きらめく月は そう おまえのナミダ
普通の顔した そう いつもの普通の
風に吹かれて消えちまうさ
あたりまえに過ぎ行く毎日に
恐れるものなど何もなかった
本当はこれで そう 本当はこのままで
何もかも素晴らしいのに♪
ノリさんは普通に歌っていたけども、僕はこの曲を知らなかった。知らなかったゆえに雷に打たれたような気持ちになり、なんだか少しだけ見えてきた気がする。
"本当はこれで そう 本当はこのままで何もかも素晴らしいのに"
僕は何を焦っていたのだろうか、何を期待していたのだろうか、何をそんなに自分を責めていたのだろうか、何にもないことを何故認められなかったのか、何をそんなに求めていたのだろうか。
「ノリさんありがとう」
ノリさんは不思議そうな顔をしていた。
俺なんてヘドロまみれの床に落ちた肉なんだと思わなくても、何かできるとか思わなくても、ここにいることを認めるのが怖かっただけだと思った。フラットなまんまを明らかに見ることが怖かっただけ、何をそんなに怖がっていたのだろうか。
帰り道グロサリーに寄って食パンを買った。
City はまだ人で溢れている。人混みの中を歩きながら身投げの準備をしていた。
セッチャンに電話をする。出ろ、出ろ、出ろ。
続く
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