2015年4月4日土曜日

雪が降るとき(第五話)

僕は死のうと思った。死にたいとかそんな半端な思いではない。

いざ死のうと考えると、どうやって死ねば良いのだろう。

カムイコタンの吊り橋は自殺の名所としても有名だ。かつて住んでいたアイヌの人々に恐れられ魔神が住む所と、いい伝えられた場所。

急流で山肌が削られて岩が剥き出しになっている、詳しくは知らないが噂によると岸の下は深くえぐられていて、吊り橋から身を投げた者はそこに挾間って絶対に水面にあがってこないと言う。

あそこなら死ねるだろう。そう思った。

不意に携帯が鳴った。誰だろう、また親父かな?

「もしもし」

「おう伸二、久しぶり元気だった?」

電話の声は俊太だった。懐かしい思い出がよみがえる。もうあれからしばらく会っていない。7年も会っていなかったのにすぐわかった。

僕は高校を卒業後、職を転々としていた。なかなか定職に就かない僕を親は何も言わず放任してくれたが、内心は実家のラーメン店を継いで欲しいと思っていることは鈍感な僕にもわかっていた。

それだけはどうしても嫌だった。まわりの同年代と同じようにテレビへの憧れや都会への憧れ好きなバンドへの憧れだけ強くあった。しかし何か具体的に取り組むものは何ひとつなかった。ただはっきりしていたのはラーメン屋だけはやりたくないという思いだけ。そのラーメンで僕はここまで大きくなったというのに。

「どうしたの?急に」

「いや、元気にしてるかなあ~って思ってね」

僕はぜんぜん元気じゃない。今さっき死のうと考えていた人間だ。

「うん、元気だよ」

「いや、ちょっとお願いがあってね」

どんなお願いであろうと受けるつもりだった、仮に冗談半分でお願いだから死んでと言われれば死ねたのだ。

聞けば飲みに行こうと誘いだ、わかったといい電話を切る。

また寝れなくなった。ここのところずっと寝ていない気がする。どうしてこうなったのか、人はまったく望んでもいない場所によく流れ着く。

テレサテンの「時の流れに身をまかせ」を思い出す。本人が時代の波に流されたような人だから歌に異様な説得力があった。彼女もまたまったく望んでもいない場所に流れついたのではないかと想像してしまう。

涙が止まらなくなってくる。何度も何度もどうしてこうなってしまったのかを頭で再生した。

僕は今の仕事についてからしばらくすると彼女ができた。彼女の名前は良美。向こうから告白してきた。

彼女もいなかったということや、良美がこの職場にきてから仕事を教え、よく話をした。そのうち仕事を終えると一緒に飲みに行くようになる。

仕事の話しはほとんどしていない、聞いてもいない彼女の身の上話を聞いてただ頷いているだけだった。

良美には嫌いな兄がいること、親父は他に女をつくって出ていったこと、母親は昔サンロクでスナックをやっていたが、最近店を閉めたこと。あまりいい話しはなかったが、なんとなく力になれたらなという中途半端な優しさが僕の中で芽生えはじめていた。

「好きです付き合ってください」

どこかで聞いた台詞だった。何回聞いても僕は「いいよ」と答えてしまうようだ。僕は人に好きだと言ったことがない。人を好きになる気持ちは常にあるが、ただそれを言葉にして伝えたことがなかったのだ。告白をするとはどんなに勇気がいることだろう。カムイコタンの吊り橋から身を投げるぐらいの思いではないかと青臭い僕は勝手に思っていた。

僕は良美と付き合いはじめる。デートはよくドライブをした。ただ海を見に行くこともよくあった。旭川は北海道のほぼ真ん中に位置している。端の海を見に行くと行っても軽く2時間はかかる。会話が途切れる沈黙は嫌いなので常にCDをかけていた。

あのカムイコタンも車で通過する。

帰りには毎回ホテルに寄っていた。良美は、はじめからコンドームは着けないでと言ってきた。一瞬耳を疑ったが、封の切られていないコンドームはゴミ箱に捨てられていた。

「中に出して」

子供ができるのは時間の問題だった。こんな何も考えてもいない自分がはたして父親になれるだろうか?しかし時間は待ってはくれず。二人でよく話し結婚することにした。実家にはあまり帰っていない。正直行きたくない。しかし行かないわけにはいかず二人で報告に行くことになる。

続く。

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